いつもインタビューを”受ける側”の池田 暁監督が、今回はインタビュアーとして登場!
『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』DVD発売/10月6日(水)を記念して、監督が『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争 パイロット版映像』、『化け物と女』に出演いただいた方々にインタビューしました。
前編はDVDの特典映像にもあるndjc2017完成作品『化け物と女』について。後編は文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2019」長編映画の実地研修完成作品『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の話題を中心にお届けします。
池田作品に関わる人たちの映画に向き合う姿勢や現場の空気感が伝わる、貴重なインタビューです!
後編はこちら
<interviewer> 池田 暁監督
<interviewee>
小野 修(『化け物と女』/パイロット版/『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』)
熊倉一美(『化け物と女』/『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』)
芝 博文(『化け物と女』/パイロット版)
友松 栄(パイロット版/『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』)
よこえとも子(『化け物と女』/パイロット版/『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』)
※50音順、敬称略、カッコ内は出演した作品
『化け物と女』※『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』DVD特典映像
自主映画出身の池田暁監督にとって初めての大きな現場となったのがndjc2017『化け物と女』である。東映東京撮影所が製作を担当した。池田監督自身、自主映画の小さな規模から何十人とスタッフがいる現場になったことで、大きな変化があったという。
池田 熊倉さんが候補にあがった時に、熊倉さんの出演している舞台をこっそり観に行って、そのときに「(主演は)熊倉さんかな」と思っていました。
熊倉 舞台は『化け物と女』(以下『化け物』)とまったく違う役だったじゃないですか。
池田 役の感じとは関係なく熊倉一美という俳優さんを見ていました。あとは三味線がどれくらい弾けるかなというところを心配していました。オーディションでは三味線がもっと上手い人もいたんです。でもオーディションが終了した時に全員一致で熊倉さんでした。
芝 Netflixで改めて『化け物』を見返したんですけど、完璧に三味線を弾いていましたね。
熊倉 弾けてましたね。下手くそなんですけどね。
芝 音は後でつけているんですか?
池田 映画ではあとで音楽を入れるのが基本だと思うのですが、このシーンだけは同録したくて、同録用のマイクをつけて実際に弾いてもらっています。
熊倉 ずっとプレッシャーをかけられていて…。「演奏を1分20秒におさめて」と言われ続けていました。
芝 しかも35mmフィルム撮影ですよね。
熊倉 そうなんですよ。スタッフさんがたくさん見ているし、朝で寒くて指も動きにくいですし、ボロボロでした。前日、ロケ地の深谷のカラオケで練習させてもらって。ただ、撮影は二日目だったので、早く終わってよかったです。
池田 『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(以下『きまぼん』)でも主演の前原滉さんがずっとトランペットを練習してくれて。僕が脚本に軽い気持ちで書いたことが役者さんの負担としてすさまじくのしかかってくるんだと、その責任を実感しました。
−−−今となっては貴重となってしまった35mmフィルム撮影について
小野 昔、NGを出した時に「お前いくらかかっていると思っているんだ!」と現場で怒られた時があって。フィルムって怖いなと思っていました…。
池田 『化け物』は30分の作品なので、3倍の1時間30分のフィルムしか用意がなかったんです。僕より俳優さんのほうがプレッシャーだったんじゃないかと思います。
よこえ ちゃんとしなきゃ、と思っていました。
熊倉 でも「スタート」って声がかかれば、やっていることは同じだと思います。
−−−自主映画との違い
小野 自主映画と比べて大きな現場にいる監督を見て、やりやすそうだと感じました。自主映画では全て自分の肩にかかっているという雰囲気があって、細かいことはなんでも監督に聞いていましたけど、そういったことが分散されている様子が見受けらました。
池田 自主映画は僕がスケジュール管理から全てやっていましたが、大きな現場だと演出だけに没頭できるので本当にやりやすかったです。
よこえ 私が池田組に参加したのは『うろんなところ』(2017)(以下『うろん』)からなので、そこまで古くないのですが、印象的だったのはクランクアップしたときに芝さんが涙目になっていたことです。自主映画からこんな大きな現場になって…という感動的なスピーチをして。それで池田監督をみたら池田監督も涙目になっていて。私は変なことを言ってウケなかったな、というのはありましたけど。(笑)
池田 涙目にはなっていなかったですけど。(笑)芝さんのスピーチ内容がとても嬉しかったのは覚えています。
芝 池田組の自主映画で最初に参加したロケ地も深谷だったし、『化け物』も深谷だったので、感慨深いものがありました。
池田 自主映画のときはよく深谷で撮影していて、その縁で『化け物』もオール深谷ロケだったんですよね。自主映画でつながってきたものが違う形で撮れたというのは、僕らのやっていることがある種の流れを汲みつつ成長していると感じたところでもあります。
芝 成長どころじゃないですよ。異次元に行っちゃったみたいな感じです。
池田 それまでは3人くらいのスタッフさんでやっていたのが、『化け物と女』で何十人となって。スタッフさんとのコミュニケーションという大きな仕事があるので、その分俳優さんと一緒にいる時間が少なくなってしまいました。みなさんが楽しそうにご飯食べている声が遠くから聞こえてきてちょっと寂しくなったりしました。自主映画だとなかった垣根ができてしまった感じはします。
よこえ 垣根なくスタッフさんも一緒にみんなでご飯を取る時間が丁寧にあるといいなと思いますね。私たちが休んでいるときにスタッフさんは作業しているし、私たちが入る直前でスタッフさんには休みができたりとか時間軸が違うので難しいとは思うのですが…。
池田 時間軸が全然違いますよね。俳優さんはスタッフさんと話す機会は少ないですよね。
よこえ 今までは監督やスタッフとの距離感が近く時間もあったから『次のシーンで使う小道具どうする?』とか膨らます作業がしやすかったですけど、そういう形でないのがわかりました。
池田 小道具一つにしても、装飾部の方と助監督さんに確認して…、大きくなるほどいろんな人が絡んできますよね。それはそれである種の面白味は感じました。自主映画と商業映画の差を感じつつも、商業的なやり方でもやっていけるなと『化け物』のときに思いました。
−−−池田演出について「人は何もしないときに個性が見える」
芝 池田監督がどうこう言うわけではないけど、役者側でこうした方がいいだろうと勝手に思って作り込んで、それを守ろうというのがあって。例えばなるべく瞬きしないとか、正面を見るとか、なるべくご飯を見ないですくって食べるとか。
小野 みんな、こうするのがいいのだろうなとか、正解だろうなとか、それぞれが持っていると思います。
池田 僕はそれをあまり壊したくないという気持ちがあります。小野さんには小野さんのやり方があって、みんな同じようなことをしているようで「個性」なんだなと。
小野 作品を見ていても感じます。
熊倉 私は池田監督作品を観たことがなかったんです。たまたま東京国際映画祭で上映されていた『うろん』を観に行って、こんな感じなんだと思いました。『化け物』は主演だけれどセリフは7個くらいで、しかも「あ」とか「なんで」とかそれだけで、ほとんど喋ってないんです。あとは座っているか食べているかだけ。どうしようと思って「何をしたらいいですか」と聞いたら「何もしないときに人は個性が見えるんですよ」と言われました。そもそも私は省エネで生きているので、何かをやろうとするのではなくこのままでいけばいいんだと、その言葉を聞いてから楽に臨めましたね。
芝 誰が言ったんですか。
池田 僕ですかね。あまり覚えてないですけど。
芝 (笑)めちゃくちゃいい言葉ですね。
池田 実は芝さんには化け物役(着ぐるみ)もやっていただきました。
熊倉 食事のシーンが大変でしたよね。カットかかるとスタッフさんが「救出!」とかけ寄って。
池田 撮影は11月後半でしたが、暑かったですよね。
芝 口からしか前が見えなくて。みんな気を使ってくださるんですけど、そんなに時間かけられないよという「圧」を感じて。(笑)いい経験になりました。
池田 主人公の女と化け物の関係性ははっきり描いていないんですが、出演者としてどう思いましたか。
熊倉 町子って未来に対して夢も希望もないし、仕事があるから朝役所に行くし、ご飯の時間だから食べて、寝る時間だから寝て、明日に期待してないし、という中で化け物が現れて、現れたから受け入れたっていうだけ。いなくてもいないまま生活できたけど、ただ単に生きていた町子が、化け物のために三味線を弾くという初めて自分の意思で行動したできごとなので、化け物の存在は町子が変わるきっかけになったんだろうな、と思いました。
池田 あの二人は“こうです”と描いているわけではないので、観ている人によって解釈がかわるところですよね。『きまぼん』の主人公の露木と向こう岸の女性の関係性も明確に描いているわけではないので、恋愛と捉える人もいるし、ある種の余白を描いてる映画でもあります。
友松 三味線を弾くところはグッときましたね。印象的で心に沁みます。
池田 あのシーンは10テイクくらい覚悟していたんですが、実際は2テイクくらいで終わったんですよね。
友松 弾いているときは何を考えていたんですか。
熊倉 無心に近いです。弾けば伝わると思っていました。
後編に続く
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